日本動向

静岡新聞論壇 12月19日掲載文

法人税引き下げの重要性

景気の先行きは不安

日本は住み良い国である。私は最近の3年間で財布を3回落としたが、何れも交番や駅の事務所に届けられていた。郊外の駅のエレベーターでは、お互いに軽く会釈して乗り降りする中・高齢者が少なくない。日本通の中国人や韓国人は、日本では、歩く速度が緩く、公共の乗り物では人を押し分けて座ろうとする人が少なく、小売店は親切であるから、心が和むと言う。

日本の多くの国民は、ほどほどの生活を送っている。大部分の高齢者は年金で生活し、急病の時には直ぐ救急車が駆けつけ、医療費は、美容院、占い師、マッサージ等の料金と比較すると断然安い。鷹揚な気持ちになるはずだ。

この住み良さは膨大な財政赤字に支えられている。歴代の政府は選挙を意識して、国民の身の丈を超えた福祉要求に応じ、かつ増税を避けてきた。私達は大量の国債発行によって、当然の権利として、豊かな生活を享受しており、将来、子供や孫が国債の償還のため、重税に苦しむのを無視してきた。

日本の公的債務の総額は約1千兆円であり、GDP比では220%に達し、イタリア、スペインを軽く抜き、アメリカ、イギリスの2倍である。現在の福祉水準を維持し、かつ財政収支をバランスさせるには、消費税を40%近く引き上げる必要があり、豊かな生活は望めない。また、そんなことをすれば、個人消費は激減して、日本経済はたちまち破滅する。したがって長い年月をかけて、少しずつバランスを回復するしか方法がない。

日本銀行はデフレ経済脱却のために、通貨量を2年間で140兆円から270兆へ増やし(アベノミクスの第1の矢)、その結果、株価の上昇と円安が進み、景気は上昇基調に乗りそうであり、また、賃金上昇と個人消費の拡大という傾向が現れたが、長く続くかどうか不安である。

明年4月には、消費税が8%になり、個人消費は駆け込み需要が発生した後、大きく落ち込み、デフレ局面に戻るかもしれない。それを防ぐため、アベノミクスでは、まず一時的に財政を拡大し(第2の矢)、同時に規制撤廃、成長産業の育成、法人税引き下げなどの成長政策(第3の矢)を実施する計画だ。

設備投資の呼び水に

法人税引き下げは、消費税が引き上げられる時であるから反対者が多いが、最も重要な政策である。所得の増加は、企業の設備投資―雇用の増大―賃金の上昇というルートをたどって実現されるが、輸出企業は日本の高賃金と高い法人税を逃れるために工場を海外に移し、また日本に進出する海外企業はまれであるから、日本経済は成長できなかった。

最近、中国の賃金は上昇し、上海周辺では日本の水準に近づいた。アメリカの製造業では、中国の工場をアメリカ国内の低賃金地帯であるメキシコ国境に移転する傾向が見られる。

過去の長いデフレ経済の結果、日本の賃金水準は国際的に見て高くはない。そこで法人税の実効税率を国際水準に近づければ、内外の企業は日本で設備投資を増やし、雇用、賃金、税収が確実に増えるはずだ。

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