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静岡新聞論壇 2月20日掲載文
新企業育てる機能作ろう
消費も輸出も頭打ちに
アベノミクスの特色は大胆さにあって、通貨量をGDPの2倍を越える高水準に引き上げ、2012年度、13年度とも大型補正予算によって、大規模な財政刺激を実施した。この政策によって、円安、株高、輸出産業の増益という成果を得た。 今後、企業が賃金を引き上げ、消費が伸び、設備投資を刺激するという好循環が期待されている。
しかし、輸出企業の増益は、円安にともなって、円に換算した利益が膨張しただけである。工場は海外に移転しているから、円安でも輸出は伸びない。その反面、円安によって、輸入エネルギー、原材料、食料等の価格が上昇し、エネルギーや輸入原材料を多量に使っている中小企業の経営が苦しくなり、また消費者の生活コストが上昇したので、消費が期待したように伸びない。
サービス産業が多様化して、コンビニ、ショッピングセンター、保育、介護施設が増え、人手不足が目立ってきたが、雇用の大部分はパートや非正規社員であって賃金が低く、国全体の個人消費を引き上げる力がない。彼らの賃金を引き上げなければ、アベノミクスは失敗する可能性が大きい。
国際経済を見通すと、中国では、北京の汚染度はWHO(世界保健機関)による安全基準の40倍に達し、幼児の喘息患者が増え、政府は汚染物質を多量に排出する工場の操業を停止している。
政府は、最大の汚染源である中小発電所と石炭鉱山を閉鎖するつもりであるが、これらの中小民間企業は雇用者数が多い。またリーマンショック後も各地で大型の工業団地や工場の建設が進み、過剰設備が増加して、自動車工業では200万台を超える能力過剰だという。失業と金融機関の不良債権処理という深刻な問題が生まれた。
中国の経済成長率は7%台に低下するだろうから、資源国の対中輸出は激減するはずだ。新興国はアメリカの金融緩和政策の縮小による資金流出を防ぐため、金利を大幅に引き上げたので、経済不況に落ち込むだろう。円安が続いても、日本の輸出は増えない。
アベノミクス成功の鍵
そうなると、アベノミクスの成功のポイントは、長期戦略の第3の矢にかかってくる。中でも新企業の育成が重要であり、事業化可能なアイデアを生み出す人材の育成と、事業化を支援するベンチャーキャピタル(VC)等の機能が不可欠だ。例として代表的成長産業である医療産業を取り上げよう。
そこでは、問題意識を持つ医師とエンジニアとの密接な協力が必要であり、VCは、高度な動物実験装置や高いIT技術をもつ企業や機関を紹介し、協力するはずだ。また優れた才能とアイディアをもつ人材が単独で起業を決意した時には、経営管理、技術スタッフ、営業等の分野の適任者を見つけ、自らも出資し、リスクを懸けて育てる。
最近、シリコンバレーで医療企業が続々と誕生するのは、スタンフォード大学を仲立ちとした医工連携が強くなり、かつVC等の優れた支援装置が幅広く存在するからだ。日本の問題点は、アイデアを生む人材の不足ではなく、関連技術との広い連携を欠き、VC等の支援機能が弱体であることだ。