日本動向

静岡新聞論壇 1月22日掲載文

拡大する反イスラム感情

政教分離の多民族国家

フランスでは、11日に行われた「シャルリエブド」テロ反対のデモに全国で370万人が参加し、議会では第1次大戦の勝利以来始めて、議員がフランス国歌を合唱した。異常な状態である。

フランスは、イスラム教徒が人口の7%、600万人を占め、欧米ではアメリカに次ぐイスラム大国である。フランスの植民地時代にマグレブ3カ国から大量な移民が押し寄せた。フランスは、自由を守り、人種差別をせず、「政教分離」のルールに従うことを誓った国民によって構成される多民族国家である。

しかし、「政教分離」はキリスト教徒の立場に立っている。イスラム教の少女がヒジャブを付けていたため、登校を拒否された「スカーフ」事件(1989年)は、それを端的に物語っている。公共の場である学校では、キリスト教徒の少女は十字架のペンダントを禁止されているから、イスラム教の少女はヒジャブを禁止されるべきだというのが、その理由である。

ところで、キリスト教の本質は神を信ずることであって、衣服には関心がない。これに対して、イスラム教は生活を厳しく規制する宗教であって、女性がヒジャブを付けるのは信仰上、欠かせない行為である。ヒジャブを十字架のペンダントと同等に考え禁止するのは、キリスト教を基準にした政教分離である。

フランスに住んでいるイスラム教徒の大部分は、植民地時代の移民の2世、3世である。彼らはキリスト教社会に住んでアイデンティティーを失っている。またリーマン・ショック以降、フランス経済が低迷し、若者の失業率は30%近くに達した。失業期間が長いと技能を習得できず、将来に希望が持てない。

政治・宗教批判を得意とするシャルリエブド紙が、しばしばムハンマドを冒瀆する風刺画を載せ、フランス国内でも表現の自由の限界を超えているという批判が絶えなかった。遂に、イスラム急進派の兄弟が怒り、七日に開催中の編集委員会を襲い、カラシニコフ銃を鮮やかに操作し、8人の委員を冷静に射殺した。

シャルリエブドは翌週再びムハンマドをからかう風刺画・特集号を500万部発行した。崇高な言論の自由を守るより、卑しい商業主義に堕したことを感じさせた。マーケット拡大を狙って、キリスト教徒とイスラム教徒の対立を煽っているようだ。

鷹揚さこそ平和への道

ドイツでは、イスラム教徒が人口のわずか1%のドレスデンで、昨年10月から毎週月曜日に「移民・亡命受け入れ反対」のデモが続けられ、今週テロを恐れて中止された。

今や、反イスラムの感情がヨーロッパ全体に拡大し、それとともに、テロの恐怖が深まり、主要都市には警官と兵隊が増え、まるで内戦状態である。イスラム教国政府はテロに反対しているが、いずれもシャルリエブドを非難しており、世界ははっきりとイスラム国と反イスラム国に割れ、反目が強まった。

日本ではイスラム教徒が歓迎され、カラオケバーでもハラール食事と礼拝の場所が用意されている。その鷹揚さこそ平和への道である。日本政府は、絶対に、欧米における言論自由論に賛成すべきではない。

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