日本動向

静岡新聞論壇 11月22日掲載文

金融緩和 デフレ・円高直らず

国債増発したい政府

デフレ・円高経済が続き景気が悪い。日銀は、国債買い入れ基金の大幅な積み増しという異例の金融緩和政策を決めた。しかし、その効果は薄い。
日本には通貨が余っており、ノーマルな経済だったならば、物価が2倍になる程、沢山の通貨が発行されているが、通貨は企業の投資や消費の増加に使われず、預金になって死蔵されている。銀行は融資が伸びず、過剰資金で国債を買っている。金融が緩和されれば、国債購入額が一層増えるだけだ。政府が日銀に金融の緩和を厳しく迫ったのは、国債を増発して、財政支出を増加したいからだろう。
しかし、デフレ・円高はすぐには直らない。それは、物価下落が継続しているので、企業は利益を守るため、投資を削減し、賃金をカットするからだ。機械設備や消費財が売れなくなり、物価をさらに低下させている。

つぎに、世界の主要国では、不況下でも物価が上昇している。最近の消費者物価を見ると、アメリカ、EU、韓国とも年間2%の上昇だ。これに対して、日本ではマイナス1%であるから、円の価値が上昇し(円高)、円高とデフレの悪循環が発生している。
日本経済はデフレが続いても、EUのように暴動が発生せず、社会は平穏だ。最近、年率で名目賃金が2%、消費者物価が1%それぞれ低下し、実質賃金は1%の低下であるが、つぎの要因が働き、国民は耐えている。

まず、円高の結果、生活必需品は安くなり、また、インターネットを利用すると、格安商品を見つけられる。企業は可能な限り正社員の解雇を避け、非正規社員でも優秀な人を雇用し続けている。従業員は企業の経営状態を知ると、賃下げに応ずるので、実質的なワーキングシェアが働き、失業率はアメリカの半分であり、ドイツより低い。若い人には簡単に会社を辞める人が多いが、貯蓄の多い親や祖父母の援助を当てにして、生活している。

政府は未曾有の金融緩和政策によって、国債を増発し、財政支出を増やして、デフレ・円高を止めようとしているが、惰性的なバラマキ支出や高齢者への過剰な保護政策を続けている限り、今までと同じように、生産が伸びず預金が増えるだけだ。

求められる総合政策

デフレの克服の最適な方法は輸出の増加である。しかし、主要国は不況のため需要が少ない。その上、日本の企業は、中産階級向けの耐久消費財、半導体、中級機械等、大量生産型の製品では、韓国・中国等の新興国との競争に完敗の状態だ。輸出が伸びない理由は円高ではなく、国内工場のコスト高、企業の新製品開発力の衰えにある。

デフレは金融緩和だけでは絶対に直せない。まず若い人が将来に希望を抱き、学び働けば、必ず報いられる社会に変えて、働く意欲を高める。それをバネにして企業の技術開発力を向上させ、また金融機関が中小企業の成長力を見抜く力を養う。生きた知識や技術を教える教育と、企業の自由な活動を縛る規制の緩和も必要である。そうした総合的政策なしに、国債を増発し、専ら、分を過ぎた公共施設を増やせば、日本経済は破滅の道を進む。

 

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