日本動向

静岡新聞論壇 2月18日掲載文

インフレ期待の創造

前向き経営で経済活性化

経済活動が活発になると雇用が拡大し、労働力不足の状態になる。楽観的な人は、それを経済が好調である証拠と考え、雇用を増やし、また設備を拡大しようとするが、悲観的な人は、それが経済の長期間に亘る成長を阻害する要因になると判断し、賃金上昇をストップし、また雇用を抑えようとする。残念ながら、現在の日本には悲観派が多く、その影響を受けて、実際の経済は長期低迷している。

楽観派が増えれば、生産が活発になり、雇用が増え、設備投資が拡大し、それらが新しい需要を生みだすので経済は成長するはずである。しかし現実には、多くの企業は将来を暗く予想して、慎重な経営を続け、設備投資を拡大しようとはしない。この悲観的な予想を、楽観的な予想に変えることができれば、企業が前向きの経営に転換して、経済が活性化するはずである。政府や日銀は、まず、物価と賃金を上昇させて、デフレ期待を一掃し、インフレ期待が強まることを狙っている。それが成功すれば、企業は生産を拡大し、個人は消費を増やすに違いない。

物価を上昇させるために、日銀は3年前から、異次元の金融緩和政策を実施して、通貨量を急激に拡大し、今月16日以降には、新たに日銀に預金した資金に対して、マイナスの金利を採用した。

これまで金融機関が、余剰資金を日銀に預金すれば、0.1%の金利が付けられ、金融機関はこれによって、日銀に預けるだけで年間2千億円以上の利益を得ていた。この資金運用には貸し倒れのリスクが全くなく、利益だけを得られる仕組みであるから、金融緩和政策が実施されても、金融機関は多くの資金を、貸し付けに廻さず日銀に預金したので、その政策が消費や投資を押し上げる効果が薄かった。今回の日銀のマイナス金利政策によって、銀行は日銀への預金をやめて、リスクをかけて融資の開拓に努力しなければならない。

静岡市は改革意欲強化を

 ところで4年後に東京オリンピックの開催を控えている。また、東京の地価が国際的水準からみて安いと判断されているので、海外からの不動産投資が増大しそうである。金利水準が低下したので、高層ビルや豪華なホテルを建設し、入居料を低くしても採算に乗る。さらに、東京をはじめとして日本の都市は、景観に加えて安全・清潔・食と国際評価が高まっており、観光業は、介護等の福祉産業と並ぶ成長力を備えた。

静岡市は、第2次大戦前に完成した中核都市であり、山梨・長野の人達に、春は「氷の世界から桃源郷に来たようだ」と人気が高かった。しかし、静岡市は2度も大火を経験しながら、防火用の大通りがつくられたほか、根本的な都市の大改造なしに再建された。もっとも不幸なことに、見事な県庁の建物は、東館・西館の無機質な建物が増築され、お堀の風景を台無しにしてしまった。

静岡市は、温暖な気候に恵まれ、山あり海あり、しかも数多の歴史遺産を持ちながら、結局、国際観光ブームに乗り遅れた。市内には本格的な豪華ホテルや、他の中核都市のように、駅に直結したホテルが乏しい。マンションの床面積は狭い。静岡県は、優れた立地に安住し、業界が保守的であるため改革が遅れた。静岡市こそ、インフレ期待を高め改革意欲を強化することが必要だ。

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