日本動向

朝日新聞静岡版 4月24日インタビュー記事

アベノミクス 竹内宏・県立大グローバル地域センター長に聞く/静岡県

「財政出動」「金融緩和」「成長戦略」の3本の矢でデフレからの脱却を目指す「アベノミクス」で、円安や株高が進んでいる。各種経済指標の改善で景気の持ち直しが指摘されているが、「実感に乏しい」という声も根強い。政策の評価と今後の経済見通しについて、元長銀総合研究所理事長で、県立大グローバル地域センター長・特任教授の竹内宏さん(82)に聞いた。

――アベノミクスをどうみていますか。
「アベノミクスの特色は『アベノ・ミックス』、全ての政策を遠慮なく投入するという点では『ごちゃまぜ』だ。(目標とする年2%の物価上昇率を達成するために)2年間で市場の通貨供給量を2倍にするのは、たとえれば、戦艦大和が片道燃料で出航するようなものだ。前に進むしかないから公共事業をやり規制改革もして、締めくくりにTPP(環太平洋経済連携協定)も、ということなのだろう」
――これまでの政策とどう違うのですか。
「小泉(純一郎)さんは、金融機関の不良債権処理や資本投入を進め、郵政改革をすれば『市場経済だからうまくいく』。民主党政権は、増税して全てを福祉に回せば、『子どもたちの将来に安心するから個人消費が増え、景気が上向く』というオーソドックスな政策だった」
「(通貨供給量を重視する)マネタリストにはそうしたはっきりした論理がない。通貨を増やせば景気が上向くというが、予想と実体経済が結びついていない。そこで、しょうがないから財政資金を投入してハード投資に戻る。それだけでも不安だから『今度は規制改革だ』と言っている」
――今のところ肯定的な意見が多いような気がしますが。
「ぼくもそんなにうまくいくのかなと思っていた。失敗した時のリスクが大きいからだ。景気が上がらず、円がずるずると下がり、貿易収支の赤字が膨らんだら、超円安と金利上昇で不況になる。そんなふうに思っていたら、株価が上がり、景気が何となく明るくなっているという」
「心配だなと思っているのは、(相場を)動かしているのは外資だということだ。株と通貨が変動した時に差益は外資にとられた。静岡の一部企業もそうだが、大手自動車メーカーなど国内企業は母工場を残すといいながら国外に工場を移転しているから、円安になっても輸出が増えない。だから不安は今でもある」
――首相は「成長戦略」の基本的な考え方として、女性の人材活用などを打ち出しました。
「出産後の女性にポストを確保するなど、働きに報いる対応を急ぐべきだ。男性の育児休暇も3年間にしたらいい」
「先日、(旧制)静岡高先輩の中曽根(康弘)さんに『日本経済は大丈夫か』と聞いたら、『日本人はしっかりしているから大丈夫』との答えが帰ってきたが、今回が日本経済を強くする最後のチャンスととらえるべきだろう。規制改革と成長産業の育成も待ったなしだ」
「国際競争力がある農業は、ITを駆使すれば、価格競争力も増す。医療も混合診療をやらないと、競争力を失う。介護の分野は低賃金で働く態勢を改め、介護ロボットの開発など企業の参入を促す。既得権益をなくすことで多少の混乱が生じることは覚悟のうえで、改革を進めるべきだ」

(床並浩一)


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