日本動向

静岡新聞論壇 4月25日掲載文

多様な学説を鯨飲する安倍内閣

マクロ政策にリフレ理論

今世紀のマクロ政策は激しく揺れた。小泉政権は竹中理論に基づいて、まず財政資金を銀行救済に投入して金融恐慌を収め、ついで郵政民営化等の構造改革を志した。

菅内閣は消費税の増税を決断した。小野(善康)理論に影響され、増税分を介護・保育等の社会福祉部門に投入すれば、そこで働く人の所得と人数が増え、安全な国民生活が保障されるから、国民の消費が増え、景気が上昇すると判断した。

安倍内閣はマクロ政策を一変させた。まず経済学会の少数派だったリフレ理論を取り入れた。浜田宏一氏等の助言があり、日本銀行は、金融政策の目標を年間2%のインフレに置き、それを実現するために、何でもやることを決めた。

予想通り、インフレ期待が高まり、株高、円安が一挙に進んだ。しかし、「期待」だけで実体経済が好転し、雇用が拡大するかどうかわからない。心配な動きが見られる。すなわち、①株高と円安で投機的に儲けたのは主として外人投資家だった。②日本の企業は、主力工場が海外移転したので、円安でも輸出が伸びない。③国債金利が低くなって銀行は利鞘が減ったので、融資を増やしたいが、国内の資金需要が少ないので、海外融資に向かっている。

幸いにも、現在、日本経済に対する内外の「期待」が強いが、この「期待」が消えた時には、猛烈な円売りが始まり、日本のエネルギー・食料などの輸入価格が暴騰して大型なインフレが発生し、生活水準が低下するだろう。円安を止めるため、金利の大幅引き上げが行われるから、日本経済は大型インフレと大不況のなかに沈んでいく。

それを避けるため、政府は第2の矢として、公共投資によって内需を創造するという古典的ケインズ政策を採用し、それでも不安であるから、構造改革派理論を取り入れ、規制緩和という第3の矢を放って実体経済を強化しようというのだ。

最近、新政策が諮問会議や政府の内部で検討されている。再就職支援付きの金銭解雇ルール(労働力を衰退産業から成長産業へ移動し易くする)、失業中の若者に対する新技術教育、3年間の育児休暇、復帰後の再教育と待遇保証、女性の役員の増加等がある。

片道燃料で出撃した戦艦

農業については、農地法の改正、農業への参入自由化、毎年2万人の若者の就業援助、農業大学との共同研究等、農業を輸出産業に育てる計画がある。日本の園芸作物農業では国際競争力があり、稲作も同じ水準を狙うべきだという。医療産業では、混合医療を認め、さらに外国人の医師や看護師が働ける医療特区を認め、医療技術の向上と国際競争力の強化を狙っている。

これらの政策は、既得権益者団体との熾烈な政治戦争になるが、日本経済は片道燃料で出撃した戦艦であり、内部紛争に明け暮れする時間はない。アベノミクスは恥も外聞もなく、多様な学説を鯨飲し、その心臓の強さとその危機感が世間に浸透してきたから、既得権益者団体との戦いに勝ちそうな気配である。強い「期待」が続いている。

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