欧米動向

静岡新聞論壇 1月7日掲載文

移民拒否と技術革新

日本の直接投資が利益

日本とヨーロッパでは、少子高齢化が進んだため、国内労働力が不足し、また、国内需要が低迷状態にある。こうした状況への対応の一つが、生産のグローバル化であり、企業は海外直接投資を増やし、部品や材料の価格が安い地点で購入し、労働コストの安い地域で製品に仕上げて、海外の大消費地で販売する。

世界で最も海外純資産残高が多い国は日本であって、それは中国・香港を抜き、ドイツやスイスの3倍に達している(2010年財務省調べ)。日本企業の海外工場では新鋭の設備が設置され、またその周辺には、大学や関連研究所、優れた住環境等が整えられて、現地の人によって本格的な研究開発が進められ、その開発成果は、国内の本社工場で利用される場合が少なくない。

中国をはじめ東アジア諸国では目覚ましい経済発展を遂げ、日本企業の工場を核とした産業集積が形成され、技術が伝搬されて、世界市場で、日本企業に勝る競争力を備えた企業も現れた。

こうした経済発展の中で、日本の直接投資は大きな利益をあげ、その配当額は貿易収支の赤字をカバーする程の大きさになった。ヨーロッパ、特にドイツの企業は同じようにグローバル化した。フォルクスワーゲンの最大の生産・販売国は中国であり、そこで電気自動車の開発も進んでいる。

しかし、ドイツ企業にとってもう一つの重要な対策は、移民に依存して国民経済を発展させることである。ドイツでは、コンピューターや数学に関する技術を備えた労働力が20万人近く不足しているという。シリア難民の中には、知識や能力が優れている人も少なくないので、彼らを巧みに選抜して、労働力不足をカバーしようとしている。

彼らはドイツで働けば、すぐに税金を支払い、まもなくドイツ語をマスターして長期間働き、ドイツの経済発展を支えるはずだ。長期雇用を望む人が多い。ドイツは、イスラム運動が激しくならない程度で移民を受け入れるつもりである。スウェーデンでは、ホテルのサービスマンは全て移民に変わった。

英米は最も効率的展開

イギリスとアメリカは過去200年の間に、英語やアングロサクソンの慣習を国際経済のルールにし、アメリカは、IMFをはじめとして、多様な国際機関を配下に収め、ポンドやドルを基軸通貨として世界金融を支配してきた。その結果、世界から信用され、世界各国から資金を集め(直接投資を受け入れ)、それを国民経済の成長に使っている。

極端な言い方をすれば、日本は工場を海外に移転して移民の流入を防いだが、東アジア諸国に追い上げられ、たじたじの状態である。ヨーロッパでは、移民を受け入れて労働力不足の解消と国民経済の発展を意図したが、イスラムとの文化ギャップに苦しんでいる。

これに対して、アングロサクソンの国は、過去の強い世界覇権力に支えられ、他の国で蓄積された資金を借りて経済成長に役立てている。最も効率的な展開である。

日本が移民阻止の方針を貫く限り、東アジア諸国との格差が縮小し、下手をすると経済力が逆転しかねない。それを防ぐ方法は、絶え間ない技術革新しかない。

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