欧米動向

静岡新聞論壇 2月5日掲載文

ユーロ圏のデフレ危機

財政赤字に苦しむ南欧

ユーロ圏では、インフレ率が昨年12月にマイナス0.2、今年1月にマイナス0.5と連続低下し、ドイツも今月マイナス0.5%であって、恐ろしいデフレ経済に陥りそうだ。いったん物価の連続的な低下が予想されると、消費者や企業は消費や設備投資を抑えて、価格がもっと下がるのを待つから、その結果、需要が減り、物価はさらに下がって景気は下降の一途を辿り、容易に戻らない。

ユーロ諸国では、ギリシャ、スペイン等、南欧各国はリーマン・ショックの時、発生した銀行の危機を救済するため、膨大な財政資金を投入した結果、ずっと財政赤字に苦しんでいる。

普通の国では、為替レートを引き下げて輸出を促進し、経済成長率を高め、財政収入を拡大できる。経済力に比べて高賃金の南欧諸国にとって、賃金引き下げには労働者が激しく抵抗するが、同じ効果がある為替レートの切り下げには、労働者の反対がない。しかし、自国の通貨を持たないユーロ圏にあるため、それができない。

そこで、財政赤字対策は緊縮財政に絞られるのだが、財政支出を削減すると、それだけ需要が減少して景気は悪化する。南欧諸国では、財政圧縮の実施とともにマイナス成長が続き、失業率は20%を超え、財政赤字がなかなか減らない。

経済が強いドイツは、南欧諸国に対し、自国の膨大な貸し付け債権を守るために、緊縮財政を主張している。しかし、財政支出を圧縮する時には、同時に経済構造の抜本的な改革が必要であるが、南欧の弱い政府は国民が嫌う政策を実施できない。

欧州中央銀行(ECB)は、デフレ経済を逃れるため、1月、ドイツの反対を押し切って、3月以降、毎月600億ユーロ(約8兆円)の国債購入を決めた。それは、アメリカや日本が実施した異次元金融緩和政策と同じ性格を持ち、同じ規模である。

ただ、ユーロ圏経済は需要不足の状態にあるから、ECBが国債購入によって銀行に資金を供給しても、企業の投資意欲を刺激するかどうか疑問である。失敗すれば巨額な国債残高になり、また中央銀行の信用が低下するという大きなリスクが残る。日本ではまだ成功していない。

独経済活況が「安全策」

最も安全な政策は、ドイツが財政を拡大して、経済を活況にすることだ。ドイツの賃金が上昇するから、南欧諸国では製品の国際競争力が増し、また、ドイツへの出稼ぎや移民が増え、失業率が低下して、経済が正常化するはずだ。しかし、ドイツはインフレ恐怖症が直らず、健全財政に固執している。

ユーロ圏では、ロシアに対する経済制裁によってロシアへの輸出が減り、主要な輸出先だった中国の経済も不振である。その上、キリスト教徒対イスラム教徒という宿命的な対立が激化し、宗教戦争の様相を呈し、イスラム移民の排斥運動が活発化している。ギリシャの政治は不安であり、また独仏の経済格差が拡大している。ユーロの存在が危ぶまれ、欧州経済は深刻な事態にある。

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